蕪木公認会計士事務所

公認会計士(蕪木事務所)

蕪木CPAコラム

【ベトナムにおける会計監査とは?】

ベトナムに進出し現地法人を設立した外国投資企業は、関連省庁に提出する年次決算書類に関して、ベトナムで会計監査を行うライセンスを持つ独立監査法人による監査を受けることが、法律により要求されています。
 日本において、会社外部の独立監査人(公認会計士や監査法人)による会計監査が義務付けられている企業等がありますが、これは商法特例法や証券取引法に基づいて監査の対象となる一部の大企業であり、多くの企業は、会社外部の独立監査人による会計監査が法律で要求されていません。
そのような背景もあり、ベトナムにおいて、会社外部の人間が会社の決算を監査するという意味がどういうことなのか?また、実務において会計監査を実施する会計事務所にどのようなことを期待できるのか?に関して、進出企業が疑問を持たれる場合も多くあります。
この度は、ベトナムにおける会計監査について、以下の通りQ&A方式でご案内させて頂きます。


Q1 ベトナムにおける法定監査(決算会計監査)の目的は何ですか?

ベトナム監査基準200によれば、「会計監査の目的は、全ての重要な点において現行のあるいは認められた会計基準および会計システムに従って決算書類が作成されているか否か、決算書類が関連法令を遵守しているか否か、そして、決算書類が真実かつ公正な表示をしているか否かに関する、監査人および監査法人による意見表明を可能とすること」であり、更に、「監査は、監査対象となる会社の財務情報の信頼性向上のために改善すべき事項や課題を明確に認識させる一助とすること」とされています。
これをもう少し具体的に表現しますと、「年次の決算書類がベトナムにおける会計に関する法規制に準拠して、税金計算や配当可能利益の計算、政府の統計作成における一つの根拠とするために、重要な虚偽記載がなく作成されているか否かを、ベトナムにおける監査に関する法令等に従って、監査を実施して、監査報告書を決算書類の作成責任者である会社の経営者に提出すること」 そして「そのような目的のために財務情報の信頼性を高めるための改善提案をすること」と解釈できます。
 解りやすく言うと、会社の外部の人間である独立監査人は、会社の決算書類がベトナムの関連法規に準拠しているか否かをテストベースで調べて、意見を述べて、当局に提出しなければならない決算書類に客観性を与えるということです。また、経営管理の観点から改善提案も提出することがあります。
ベトナム当局は外部監査人を活用し、外国投資企業を牽制するとともに、その監査意見を活用して、外国投資企業は概ね法律に準拠して決算書類を報告しているであろうという心証を形成します
  実務において見受けられる以下の事例は、監査人に指摘を受ける可能性があり、監査報告書においても言及される可能性があると考えられます。
@ 企業が納めるべき源泉税(例えば、外国契約者税や個人所得税等)または社会保険料を納付しておらず、その金額が重要性を持つ程度に大きい場合。
A 投資ライセンスを遵守しておらず、その影響が財務状態及び経営成績に重大な影響を与える可能性がある場合。例えば、投資ライセンス上の輸出比率が達成されておらず、その結果として投資インセンティブ等に変更があり、利益にも重大な影響があると考えられる場合。
B 税務上損金として認められていない費用の調整を税務申告においてしていない場合。
C 過小資本(法定資本が総投資の30%以上という規制を遵守できない状態)が恒常的になり、外国投資法の規制に抵触する可能性がある場合。                            
                                                            等


Q2 会計監査では、どのようなことを実施するのでしょうか?

 独立監査人は、基本的には、ベトナムにおける監査基準に準拠して監査を実施いたしますが、このベトナムにおける監査基準は発展途上にあるため、国際監査基準における監査手続にも準拠して監査を実施し、意見表明する場合もあります。
 実務で通常実施される監査手続きの具体例は、例えば、以下の通りです。
@ 会社の経理業務が合理的であり、正確な決算書類が作成できる体制になっているのか検証する。(内部統制の検証)
A 銀行預金残高や銀行借入金残高を銀行からの残高証明書と突合せて、その残高が合っていることを確かめる。
B 売掛金/買掛金の残高に関して、取引先に照会する。
C 棚卸の立会いを実施して、棚卸資産の実在性・網羅性・評価額の適切性等を検証する。
D 固定資産の実物検査等を実施しその実在性を検証するとともに、減価償却の計算方法の妥当性を検証する。
E 納税額および未払税金の妥当性の検証。
F 決算書類の表示の妥当性の検証。 等



Q3  独立監査人(ベトナムの会計事務所)の責任は?

 独立監査人は、決算書類の作成を実施するのではなく、あくまでも監査基準に準拠して実施した監査手続きとその監査意見に責任を負います。
 したがって、納税申告ミスがあり決算書類に法令違反があったとしても、その金額の重要性が低く、あるいはそもそもベトナム監査基準の範疇では発見できないものと判断されれば、対外的に免責されることになっています。しかしながら、依頼人である企業は、監査人からその旨の指摘がなければ、そのことに不満を覚えるかもしれません。
 監査人が対外的に責任を負うことになる場合は、例えば、監査基準によって、監査を実施すれば発見できたであろう、企業の重大な法令違反等による決算書類の虚偽記載を監査報告書に記載しなかった場合ですが、この場合も決算書類の虚偽記載自体の責任は企業が負います。
 実務において、監査意見に間違いがあると判断されるような場合に、当局がその旨を指摘し、その責任を監査人に追及するといった事例は、少なくとも日系企業の会計監査では無いと思われます。そもそも、当局は監査人の監査意見および責任をあまり重要視していないのではないかと想像されます。監査人の責任が当局に対して相対的にあまりないと考えられる根拠は、以下の通りです。
@ 企業の会計方針によって左右される会計処理に関して、当局として専門的な判断ができにくい。
A いまだ発展途上であるベトナムの監査基準に準拠した会計監査のみでは発見できない虚偽記載があると考えられる。
B 監査意見は決算書類が概ね妥当であることを検証するものであり、金額的な重要性の判断で監査上問題としないという抗弁が可能だが、その重要性の判断が明確ではない。
C 決算書類の法令違反等に関して、先ずは企業にその責任を直接追及すればよく、限られた時間と報酬の中で監査を実施している監査人の監査意見に依存することはせず、監査人の責任を間接的に追及する必要性があまりない。
 例えば、ある会社で外国人の未払個人所得税の過少計上がある場合、決算書類におけるその金額の妥当性の判断を当局として実施することが困難であり、その金額の妥当性は、通常の監査手続きでは正確に把握できず、重要性の観点からも監査上問題としない場合が多いのが通常と考えられます。 また当局は監査人の決算監査に依拠せず、税務査察という手段を通じて直接企業に責任を追及すればよいので、決算書類の監査意見に対して責任を追求する意義があまりありません。


Q4 この会計監査を実施するベトナムでの会計事務所にはどのような種類があり、それには一体どの程度の費用がかかるのでしょうか?

 ベトナム財務省が認めた会計事務所においてベトナム公認会計士資格を有する者が監査証明業務を実施することができます。

 現在、この会計事務所には、100%外国資本、国営、プライベートの三種類の形態があります。 100%外国資本では、KPMGやプライスウォーターハウス、アーンストヤング、といった欧米系大手国際会計事務所、国営企業では、VACO(デロイトトーマツと提携)、AFC等、そしてプライベートでは、PIONEER MANAGEMENT、ACPA社、A&C等があります。(MOFから情報を入手できれば、監査法人の数を入れる)
 会計監査の報酬は、その企業の事業規模および複雑性、決算期等によりますが、100%外国資本の会計事務所の報酬は相対的に高く4000ドル〜20000ドル程度となっています。 国営及びプライベートであればその報酬水準の20%〜60%引き程度のようです。


Q5 会計監査とコンサルティング業務

 ベトナムにおける会計監査も独立性を確保することが要求されています。そもそも、会計監査には客観性が求められるため、監査証明業務を実施する担当とコンサルティングをする担当とが同一であることには従来から問題が指摘されています。また、記帳代行などの会計サービスと同時に監査証明業務を実施することは禁止されています。
現在、エンロン事件に端を発した会計不祥事により、会計監査とコンサルティング業務を分けることが国際的な潮流になっていますが、ベトナムにおける実務では依然会計監査とコンサルティング業務の区分けがなされていないのが実情です。
実務においては、企業にとって、会計監査は単にベトナム当局に提出する決算書類の作成を意味している場合が多く、そもそも、経営管理目的にはベトナム版の決算書類を使用していないのではないでしょうか。ベトナムの法律に準拠しなければならないので、消極的に会計監査を実施している企業が多いと考えられます。



参照: 外国投資法施行規則(Decree 24)

第64条 財務報告

 外国投資企業及び事業協力契約の外国側当事者は、毎年の財務報告書を企業の財務年度が終了した日から3か月以内に投資許可証発行機関、計画投資省、財政省及び統計総局に対して提出しなければならない。

 外国投資企業又は事業協力契約の外国側当事者の毎年の財務報告書は、上記の各機関への提出の前に、会計監査に関する法規の規定に従って、ベトナムにおいて活動を許可された1つの独立会計監査法人によって会計監査されなければならない。

  会計監査法人は、会計監査結果の独立性、客観性及び正確性に関して法規上の責任を負う。外国投資企業又は事業協力契約の外国側当事者の会計監査済財務報告書は、ベトナム国家に対する納税義務その他の財政義務を決定、確定するための根拠として使用することができ

参照:
ホーチミン市、2004年 月 日

独立監査人による報告

VBP社経営会議及び取締役会 様

Pioneer Management社は、VBP社(以下「会社」)の2004年3月31日現在の貸借対照表ならびに同日をもって終了する事業年度の損益計算書、キャッシュフロー計算書の監査を行った。 これらの決算書類は会社の取締役会の責任であり、ベトナム会計システムに基づいて作成する義務がある。我々の責任は、監査に基づいてこれらの決算書類に対して意見を表明することである。

監査は、会社にて実施されている会計システム及びベトナム外国投資法に従い活動している全ての企業に適用される会計財務の法令を基礎として行われた。

我々は、ベトナム監査基準及び国際監査基準に基づき監査を実施した。これらの基準では、決算書類に重要な虚偽記載がないか否かに関して、合理的な確証を得るように、我々が監査を計画し実施することを求めている。監査は、決算書類における金額及び開示を裏付ける証拠をサンプルにより検証することである。また、監査は決算書類全体としての表示の妥当性の検証に加えて、適用された会計原則及び会社による重要な見積もりの合理性を検証することも含まれている。我々は、実施した監査手続きのよって、我々の意見表明のための合理的基礎を得ていると確信している。

我々の意見では、添付決算書類は、重要な虚偽記載はなく会社の2004年2月29日現在の財務状態ならびに同日を以って終了する会計年度の経営業績及びキャッシュフローを、ベトナム会計システムに準拠して真実かつ公正に表示している。



代表                              監査人



BUI VAN TUYNH    蕪木 優典
公認会計士登録番号 N.0623/KTV       公認会計士登録番号 N.0291/KTV

蕪木公認会計士事務所